ベクトル空間の基底と次元

基底は、ベクトル空間の構造を調べる最強のツールです。基底なしにベクトル空間を理解することは不可能といっても過言ではありません。

ベクトル空間の有限基底

\(V\)をベクトル空間、\(v_1,v_2,\cdots,v_n\)を\(V\)の元とする。

\(v_1,v_2,\cdots,v_n\)が、次の2つの条件を満たすとき、\(V\)の有限基底と呼ぶ。

  1. \(v_1,v_2,\cdots,v_n\)は線形独立である。
  2. \(v_1,v_2,\cdots,v_n\)は\(V\)を生成する。

線形空間を調べるのに避けては通れない概念が基底です。

基底を使う事で線形空間の構造が見通しよくなるのです。

一般的に線形空間の基底は、有限個のベクトルからなる集合であるとは限りませんが、ここでは有限個の要素でできる有限基底のみに言及します。

有限基底の事を単に基底とも言います。

文脈を調べることで有限基底なのかそうでないのかは判断できますので「有限」を省略しても混乱することはまずありません。また、混乱が予測される場合には、断り書きを入れることで対処します。

有限次元ベクトル空間

有限基底をもつベクトル空間を有限次元ベクトル空間という。

また、零ベクトル0のみからなるベクトル空間\({0}\)も便宜的に有限次元ベクトル空間という。この場合、ベクトル空間\({0}\)は空集合の基底を持っていると考える。

有限次元ベクトル空間ならではの次の定理があります。この性質はフルに活用され、その性質をつかいたいがために、議論の対象を有限次元に制限しているといっても過言ではありません。

次元

Vをベクトル空間とし、\(\{v_1,v_2,\cdots,v_n\}\)と\(\{w_1,w_2,\cdots,w_m\}\)をVの2つの基底とすると、

\(n=m\)である。

すなわち、\(n\)個の元からなる基底があると、他のどの基底も\(n\)個の元からなる。

すなわち、nは基底の取り方によらないV固有の値である。この\(n\)の事をVの次元といい、

\[\dim V\]
と書く。

0次元ベクトル空間

V=\(\{0\}\)の場合は、\(\dim V = 0\)と定義する。

順序基底

\(\{v_1,v_2,\cdots,v_n\}\)をVの基底とする。

基底ベクトルに並べ方に順序がついている基底を順序基底という。

順序基底については、言葉でなかなかうまく説明できないため、例をあげて補足しておきます。

たとえば、

\(p=\begin{pmatrix}1 \\ 2 \end{pmatrix} \)と\(q=\begin{pmatrix}3 \\ 0 \end{pmatrix} \)からなる集合\( \{p,q\}\)は2次元数空間の基底となっています。

ベクトル\(p,q\)の並べ方は、\(p,q\)と\(q,p\)の2通りあります。

\( \{p,q\}\)の元がどの順序で並んでいるのかも含めて考えるのが順序基底です。

順序基底としては、

\(p,q\)の順序の基底\( \{p,q\}\)と
\(q,p\)の順序の基底\( \{p,q\}\)は
区別して考えます。

順序基底の順番は、基底ベクトルを書く順番で表します。

この約束の下で、\( \{p,q\}\)と\( \{q,p\}\)は集合としては同じとみなされますが、順序基底としては区別されます。

順序基底は、よくギリシャ文字を使って表します。

例えば上記の二つの順序基底を\( α=\{p,q\}\)、\( β=\{q,p\}\)のように表します。

\(α\)と\(β\)は集合を表す記号と同じですが、順序基底としてみると異なるものとして扱われます。

標準基底(自然基底)

基本ベクトルの集合\(\{e_1,e_2,\cdots,e_n\}\)はn次元数空間\(R^n\)の基底である。この規定を(n次元数空間\(R^n\)の)標準基底もしくは自然基底という。

順序基底(自然基底)の事を単に基底と呼ぶこともある。

特に断り書きがなければ、基底といった場合、それは暗に順序基底であることを指しています。

グラフを書く時などでのx座標、y座標などといった用語に慣れている人にとって、この暗黙の宣言は全くと言って自然です。自然すぎて暗黙に宣言されていることに気が付かないほどです。

座標(成分)

Vをn次元ベクトル空間、\(\{v_1,v_2,\cdots,v_n\}\)をその基底とする。

Vの任意の元\(v\)は、スカラー\(a_1,a_2,\cdots,a_n\)を用いて

\(v=a_1 v_1+ a_2 v_2+\cdots+a_n v_n\)

の形に一意に書くことができる。

これら\(a_1,a_2,\cdots,a_n\)のことを係数と呼び、それら係数からできるベクトル

\((a_1,a_2,\cdots,a_n)\)のことを、

(順序)基底\(\{v_1,v_2,\cdots,v_n\}\)に関する座標ベクトルもしくは成分ベクトルという。

係数のことを座標とか成分という事もあります。

また、座標ベクトルの事も単に座標とか成分という事もあります。

関連項目

コメント

  1. […] 有限基底をもつベクトル空間を有限次元ベクトル空間という。 […]

タイトルとURLをコピーしました